韓国・朝鮮人元BC級戦犯者に補償を

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5.補償請求裁判から立法運動へ


1991年11月12日、韓国・朝鮮人BC級戦犯者は、日本政府を相手取り謝罪と補償を求める裁判を東京地裁に提訴した。

 控訴審判決を直前に控えた1998年2月2日、文泰福さんが息を引き取られた。享年74歳。同進会会長として、長年にわたる補償請求運動の柱となり、さらに訴訟では原告団長としての重責も担ってこられた。
 イギリスによるBC級戦犯裁判で死刑判決を受け、100日間をPホール(死刑房)で過ごした経験を持つ文さんは、折にふれて「死んでいった仲間たち」への思いを口にした。裁判の原告本人尋問では、まず刑死者たちの冥福を祈り合掌してから証言にのぞんだ。常に穏やかな笑みをたたえ、決して激昂することのない文さんだったが、朝鮮人戦犯たちがいまわの際に叫んだという「大韓独立万歳」を法廷で再現したときの、たとえようのない烈しさに、法廷は静まり返った。
 葬儀は田無山総持寺で営まれ、同進会の仲間たちが、途半ばにしてたおれた長年の「同士」を寂しく見送った。裁判原告(控訴人)はご長男・承謙氏が「承継」し、日本政府への補償要求運動は、当事者世代をこえて引き継がれることとなった。

 なお、裁判提訴時の原告7名のうち、すでに4名がこの世を去っている。
1997年4月 裁判原告、朴允商さん死去
1998年2月 裁判原告、文泰福さん死去
1998年11月 裁判原告、文済行さん死去
2004年1月 裁判原告、尹東鉉さん死去

 訴訟での請求は退けられたが、判決文は韓国・朝鮮人元戦犯の被害を認め、立法措置がとられることを促している。

東京地方裁判所判決(1996年9月9日・請求棄却)
【判決文から】
「わが国の軍人軍属及びその遺族に対する援護措置に相当する措置を講ずることが望ましいことは言うまでもない。しかし、国の立法政策に属する問題」

東京高等裁判所判決(1998年7月13日・控訴棄却)
【判決文から】
「…控訴人たちについてみれば、ほぼ同様にあった日本人、更には台湾住民と比較しても、著しい不利益を受けていることは否定できない。
 このような状況の下で、戦犯者控訴人らが不平等な取り扱いを受けていると感じることは、理由のないことではないし、その心情も理解し得ないものではない。
 この問題について何らかの立法措置が講じられていないことが立法府の裁量の範囲を逸脱しているとまではいえないとしても、適切な立法措置がとられるのが望ましいことは明らかである。第二次大戦が終わり、戦犯控訴人らが戦犯者とされ、戦争裁判を受けてから既に50余年の歳月が経過し、戦犯者控訴人らはいずれも高齢となり、当審係属中にも、そのうちの2人が死亡している。国政関与者において、この問題の早期解決を図るため適切な立法措置を講じることが期待される」

最高裁判所判決(1999年12月20日・上告棄却)
【判決文から】
「上告人は、いずれも我が国の統治下にあった朝鮮の出身者であり、昭和17年ころ、半ば強制的に俘虜監視員に募集させられ、…有無期及び極刑に処せられ、深刻かつ甚大な犠牲ないし損害を被った。
 上告人らが被った犠牲ないし被害の深刻さにかんがみると、これに対する補償を可能とする立法措置が講じられていないことについて不満を抱く上告人らの心情は理解し得ないではないが、このような犠牲ないし損害について立法を待たずに戦争遂行主体であった国に対して国家補償を請求できるという条理はいまだに存在しない。
 立法府の裁量的判断にゆだねられたものと解するのが相当である」
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 立法を促す裁判所の判決を受け、働きかけの場は、立法府へと移った。補償請求裁判を闘った弁護士らによる試案も出され、また、韓国・朝鮮人BC級戦犯者らの蒙った不条理に理解を示す国会議員も増えてきた。

 2000年3月、参議院国民福祉委員会で丹羽厚相
「日本国民として戦争犯罪を犯したという理由で刑を受け、監禁された韓国出身のBC級戦犯者の方々が経験されたご苦労に対しては、心中察して余りある。どういう対応策がとれるか検討していきたい」

 2003年7月、衆議院内閣委員会で福田官房長官
「戦争ということはあったにしても、そのことによって大きな負担を与えたということについて、政府として十分考えていかなければいけない問題。実態をよく確認して、どういう方向をとるべきかよく考えてみたい。至急実情を調べさせていただきたい」

 同進会が発足した1955年当時、会員は約70人。それから50年を経た2005年には、日本に残る当事者会員は13名となり、残り37は遺族世帯となった。当事者13名も高齢で、入院を余儀なくされている者もいる。
 日本の戦争責任を肩代わりさせられた、韓国・朝鮮人BC級戦犯者らの抱えてきた苦痛と苦悩――。刑死した仲間、そして同じく進む道を選びながら時間の経過のなかで道半ばに斃れざるをえなかった多くの仲間(夫や父親)たちの思いを抱え、いま、同進会は力をふりしぼり日本国の誠意ある対応を求めている。立法府の良識と早急な判断が求められている。

verdict

   
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